Copyrighted:ゆでイズム一筋二十五年

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オリジナル: 「特別インタビュー ゆでイズム一筋二十五年」『集英社ジャンプリミックス ワイド版 闘将!!ゆでたまご』集英社、2004年9月13日、ISBN 4-08-106729-5、83-85, 169-171, 308-310, 491-493, 533-535頁。

目次

ゆでイズムにおける"キャラクター"とは?

[P 83]

キャラはインパクトが大切

――まずはキャラクターというテーマについて色々おうかがいしていきたいのですが、先生がキャラを創造されるにあたって、もっとも重視されるのはどのあたりなのでしょうか?

嶋田: やはり見た目のインパクトですね。

――やはりそれは読者に対しての印象、というところでしょうか?

嶋田: そうですよね。キン肉マンにしてもそうですけど、一見、気持ち悪いと思ってしまうくらいのビジュアル的なインパクト。そこをまず重視しますね。

――しかし絵となると、それを実際に描き起こすのは中井先生のお仕事になるわけですよね。そのご相談というのはどのような形で?

嶋田: 最初はまず話をしながら落書きしてることが多いかな?(笑)。

中井: それが多いね(笑)。

嶋田: 作ろうという意識よりも、落書きしながら自然とできていく、というパターンですね。二人でまず大まかな案を話して、じゃあそれぞれで描きあおうと。それでお互いの描いた絵を後で見せあ

[P 84]

って、いい部分をくっつけていくことが多いです。

――ではその前の段階で、キャラクターの性格づけなどの話はされているんですか?

嶋田: ええ、そうですね。それでお互いの想像したものを落書きしあうんですが、僕が最初に描くものはだいたいいつも、確実に読者に嫌われるだろうなぁという程にメチャクチャで(笑)。相棒の描いた絵でかなり中和されるんですよね(笑)。でも、それがいいんじゃないかと。

中井: うーん、両極端なんですよね(笑)。どちらかと言うと、僕はアクの強いキャラを作るのが苦手なんです。自分だけで作る場合はどうしても無難に落ち着いてしまう。でも重要なキャラクターには、やはりアクの強い部分が必要なんですよね。そういう時にはよく、相棒のデザインセンスに助けられます。

主人公の条件は?

――では次にキャラクターの中でも特に「主人公」についておうかがいしたいのですが、先生のなかで「主人公のキャラクターはこう作っていきたい」というようなポリシーはおありですか?

嶋田: やはり未完成で成長していくキャラクター。どうしてもこれが原点になってきますね。

――確かに先生の作品ではそういう主人公が多いですね。

嶋田: ドジっぽくて、見た目にインパクトがあって。でもそれがカッコよく見えてきたらいいな、というのが根本にある願いですね。キン肉マンもそういうタイプでしたが。ラーメンマンなんて一見したら、ただのドジョウヒゲのオッサンですからね。でもそれがカッコよく見えてくる。そう育っていくのが理想です。

――例えば連載中の「キン肉マンII世」ですと、正直ケビンマスクジェイドの方が、主人公の万太郎よりもビジュアル的にはかっこいいという声が多いですよね。そのあたりはやはり意図的に、そういうシチュエーションにされているのでしょうか?

嶋田: そうですね。脇役がしっかりしてる作品は強いですから。ある意味、主人公の万太郎やスグルは周りのキャラを活かすための狂言回しに使う、ということはやりますね。主人公がドジで不格好な分、周りのキャラにはビシッとしたものを配置する、ということもある程度は意識的にやってます。

―― では主人公とその周辺のキャラを作る上で、こういうキャラが何人で……という役割分担のようなものを先に設定されておくことも多いのでしょうか?

嶋田: いや、そういうところまで決め込んでおくことは少ないです。ただし、インパクトのある主人公が一人いて、それに『キン肉マン』でのミートくんや『闘将!!拉麺男』でのシューマイみたいな、主人公の弟分がいる。相棒も子供のキャラは非常にいいものを描いてくれますし、そういった信頼感もあるのかもしれませんね。でも決め込んでおくとしても、基本的にはそれくらいまでです。

万太郎のできるまで

―― では具体的なキャラクターの作り方、というところでお話しさせてもらいますと『キン肉マンII世』の万太郎の場合はどうだったんでしょうか?

嶋田: 最初の性格づけに関しては、編集との話し合いでかなり変わっていきましたね。僕の中では、最初の万太郎はもう少し親父のスグルに近い性格のキャラクターでしたし、話し方も王子言葉で想定してました。一人称も「ボク」じゃなかったし。

―― 確かにスグルの一人称なら「わたし」ですよね。

嶋田: そちらに近い印象で考えていましたね。

―― その性格的な変更は、やはり主人公を連載誌である「週プレ」の読者層に近づける、という意味合いだったんでしょうか?

嶋田: そうですね。そのように編集者との話し合いの中で、おぼろげに考えていたものが具体的なものに固まっていく、ということもあります。

―― ではその万太郎の絵としてのデザインについてですが、額の髪の毛ですとか、そのあたりの設定は先程話されていたような形でご相談を?

中井: ええ、ここにキャラクターデザインを決めていたときのノートがあるんですが……万太郎はこれですね(※図1)。

―― かなり今と違って顔が角張ってますね。

中井: どうしようかと試行錯誤していて、それでメキシカンレスラーなどで髪の毛がマスクから出ている人がいるじゃないですか。相棒が「ああいう雰囲気はどうだろう?」と言い出して、それで髪の毛を付け足してみたんです。おぼっちゃんだからそのまま坊ちゃん刈り(※図2)にしてみたり、次はリーゼント(※図3)にしてみたり(笑)。そうこうするうちに、今に近い形ができまして(※図4)。

―― かなり見慣れたデザインに近付いてきましたね。

中井: でもこの頃はまだ額の穴が広かったんですよね。「肉」の字も見えてました。で、もう少し印象を変えてみたんです(※図5)。そしたら相棒が「もっとカクカクした髪型の方がインパクトが出るんじゃないか?」と言い出して、それでようやく落ち着いたのがこのデザイン(※図6)です。

―― こうしてキャラクターのデザインが固まるまでには、やはりいろんな仮のデザインが作られては消えて、

[P 85]

時間がかかっていくものなんですね。

中井: 何でもいいからどんどん書き込んでいかないと、固まってこないですよね。仮にその場でパッと「これでよし」という風に決めてしまっても、描いていくうちに「もっとこうしたい、ああしたい」というのが絶対に出てきますしね。

―― そのあたりの試行錯誤はやはりお一人で考えられるよりも、お二人の方がスムーズに進みそうですね。

嶋田: キャラクターを考えるときは特に面白いですよ。二人で夜中にゲラゲラ笑いながら(笑)。

―― そういうときは、やはり二人で組んでてよかったと実感されることも?

嶋田: そうですね。そもそも僕はいつも具体的なイメージはあまりないんですよ。ムチャクチャ言うだけで(笑)。それを相棒が見られる形にしてくれて、それを見て初めて「こういう表現の仕方があったのか!」と逆に感心させられる。その繰り返しです。

―― うーん、見事なタッグコンビネーションですね。

[P 169]

ゆでイズムにおける"ストーリー"とは?

ギャグの中にメッセージを

―― 次にストーリーに関してのお話しを主にうかがいたいのですが、まず最初の質問として、マンガの系統をストーリーマンガとギャグマンガの2つに分類した場合、まず嶋田先生はどちらの方がお好きですか?

嶋田: 好きなのはギャグマンガの方ですね。

―― でも今までに手がけられた作品としては、ストーリーマンガの方が多いですよね。

嶋田: ただ僕らの場合はストーリーものという枠にとらわれないで、ストーリーマンガをやってるようでギャグマンガになっている、というパターンが多いですね。

―― それはギャグマンガの手法でストーリーを作っていくことが多い、ということでしょうか?

嶋田: そうですね。例えば『キン肉マンII世』の場合だと、サンシャインが串カツ食べてる話をやったことがあるんです。あれなんかはとても真面目なシーンなんですけど、でも自分の中ではギャグだと思ってるんですよ。初代の『キン肉マン』のパロディを『II世』でやってる。あのシーンはそういう感覚でしたね。自分たちの昔の作品のパロディを、今の自分たちがやっているというのは妙な感覚ですけどね(笑)。

[P 170]

―― それは深いですね。

嶋田: 昔から読んでくれている読者はそれに対し、ギャグと取ってくれる人もいれば、そのまま真面目なシーンに感動してくれる人もいる。『II世』の場合はそのあたりが難しいです。

―― あとギャグマンガといえば、起承転結のはっきりした1話完結スタイル、という手法がパッと頭には思い浮かぶのですが?

嶋田: そういう意識は常にありますね。でももちろんそのマンガのストーリーが佳境に入ってきた時には、完全なストーリーマンガの形態になるんですが。

―― 中井先生の場合はどうでしょうか?

中井: 僕らは最初ギャグマンガで始まりましたし、やっぱりギャグマンガは好きです。昔、デビュー前の高校生当時にチャップリンの映画をよく見てたんですが、笑いの中にもちょっとしたペーソスがあって、ああいうのがとても好きだったんです。だから最初の頃は、ギャグを描いてるんだけどその中にも泣きの部分を入れてみたりとか、当時からそういうことは試してましたよね。僕も相棒もそうですけど、もともと関西陣ですからお笑いは好きなんですよ。で、泣きの部分も好きなんだけど、お行儀のいいものは照れくさくて描けないんですよね。

―― だからギャグでごまかしつつ、そういうものを表現する?

中井: そういう関西人の土壌というものはあるでしょうね。だからもしも僕らが東京生まれの東京育ちだったら、おそらく『キン肉マン』もかなり変わってたと思いますよ。

嶋田: 今、お笑いの人で「『キン肉マン』が好きだ」とか「ギャグに影響受けた」と言ってくれる人が多いじゃないですか。あれは嬉しいですよね。僕らも基本には常にギャグの精神があったし、そういう風に言ってくれて嬉しいのは、やっぱり自分でもギャグが好きなんだと思います。

開拓精神は忘れたくない

―― ギャグマンガの難しいところや楽しいところなどは?

嶋田: 完全なギャグマンガだと、毎回1話完結で終わらせないといけないのが難しいところですね。続き物のギャグならまだいいんですが、基本的には次の回ではまた全く違うことをやらないといけない。そうなるとだんだんキツくなってきますよね。あとは、僕らの場合は高校を卒業してすぐプロになりましたから、ギャグメインでやってた当時は読者の感覚に近いものがあってやりやすかったんですけど、最近は読者と年齢も離れてきてますから、そうなるとだんだん難しくなってきますよね。ただ、今連載している「週プレ」の読者の場合だと『キン肉マン』を見て育ってくれた人が多いですから、昔のギャグをやってもいいという安心感は多少ありますね。

―― 昔のファンがそのまま付いてきてくれてるのは『II世』の強みでもありますよね。

嶋田: それは確かにありがたいところです。新しい世代の読者を笑わせるのはなかなか難しいところではあると思いますけど、それでも小さい子供向けのギャグマンガを新たにやってみたい、という思いはありますね。そういうチャレンジ精神は常に持っていたいというのもありますが、やっぱりギャグはやってて楽しいし、フラストレーションも溜まりにくいですから。

―― 逆にストーリーマンガだと、フラストレーションが溜まることも?

嶋田: 昔はそうでもなかったんですけど、特に今の連載は『II世』なんで、読者の期待が大きいんですよ。既に『キン肉マン』という前の作品を見て育ってきた人が多いですから「こうあるべきだ」という考えがそれぞれの読者にあるんですよね。それで少しでもおかしなことをやると「それは違う!」と言われて(笑)。これは毎週すごいプレッシャーですよね。

読者の評価こそが全て

―― でもそもそも昔の『キン肉マン』は結構なんでもありの自由なマンガでしたよね。

嶋田: 自由でしたねぇ(笑)。でもこれが『II世』となると難しい。それぞれの読者がそれぞれの『キン肉マン』を持ってますから。だからできるだけ期待にこたえたいんですけど、例えば悪魔将軍が出たらそれはそれで評判いいんでしょうけど、もしそれでつまらないことをしたら一気に評判は落ちそうですし、出なかったら出ないで文句出るでしょうし、難しいですよね(笑)。

―― では『II世』に関して言うと、昔のキャラを使うのは逆に難しいと。

嶋田: 本当に難しいです。ただ、相棒の絵は昔よりもすごく上手くなってるので、僕としてはそれで助かってる部分もありますね。

―― ちなみに先生は新連載や新シリーズ開始の際には、全体のストーリー展開を細かく決め込んで作業される方でしょうか?

嶋田: 最初の設定だけは細かく練りますけど、最後まで決めておくことはほぼないですね。始まってみないとわからないですから。実際に転がしながら臨機応変に、というところです。

―― それは読者の反応を見ながら、ということでしょうか?

[P 171]

嶋田: ええ、読者が全てだと思います。最近は読者も大人が多いので、日常的に会話する中でいろいろ意見を直接いただく機会が増えましたし、あとは超人募集のハガキ等に意見が書かれてあることも多くて、そういったところもよく参考にしてます。

―― 例えば読者の反応を見てストーリーを変えた例などは?

嶋田: 最近の『II世』の悪魔超人編だと、ボルトマンは最後に万太郎と戦わせるキャラとしてほぼ決めてたんです。新キャラもしっかり育てないといけないですから。でも、そこでアシュラマンを出して動かしてみると、やっぱりアシュラマンはかっこいいし、昔からの読者には愛着もある分、評判もいいんですよ。それで結局、最後はアシュラマンを万太郎と戦わせたんですが、これはギリギリまでかなり悩みました。他にはその前の超人オリンピック編で、万太郎を優勝させなかった、というのも直前まで決められませんでしたね。昔ならもう少しスッと決められたんですけど、そのあたりもプレッシャーからなんでしょうね(笑)。

ゆでイズムにおける"取材"とは?

[P 308]

流行を先取りしすぎた作品群!?

―― 次に先生が新作や新シリーズなどの構想や世界観を新たに発想される場合の方法論について、おうかがいしていきたいのですが?

嶋田: 自分たちがもともと好きなものをテーマに、あとは「これが来そうだな」と思えるもの。そこから考えていくことが多いです。

―― 例えば『蹴撃手マモル』の場合ですと、連載当時ムエタイという格闘技は、日本ではそれほどメジャーではなかったですよね。

嶋田: あれはそろそろキックボクシングが来そうだな、と思ったんです。当時日本ではマイナーだったけど、アメリカではジャン・クロード・バンダム等が活躍し始めていてそういった映画が見られた。それでアメリカに飛んだりもしましたし。あとはタイにかつての香港映画のイメージに近いエスニックな雰囲気を感じて、それでそこを舞台にしたら面白いんではないかと。他でも『闘将!!拉麺男』の場合ですと、昔から中国拳法やブルース・リーが大好きでしたし。

―― 『ゆうれい小僧がやってきた!』の場合は?

嶋田: これも昔から『妖怪百物語』や『ゲゲゲの鬼

[P 309]

太郎』などの妖怪ものが好きだったのと、あとはちょうど『霊幻道士』のキョンシーがブームになってた頃でしたよね。

―― そういったご自身の嗜好に、世間のブームの予兆を加味して発想されていくことが多い、ということでしょうか?

嶋田: そうですね。でもブームと言うところでいうと、僕らのやるタイミングはいつもちょっと早すぎるんですけどね(笑)。

―― 確かに『蹴撃手マモル』の頃はまだK-1もなかったですし、総合格闘技にしても今でこそ広く認知されていますが、先生の作品の頃ですと……(笑)

嶋田: でも「時代は巡る」というのはあるんですよ。僕らの小さい頃にはキックボクシングのブームがあってそれで興味を持っていたんですが、また絶対にそういうのは来るだろうな、という感はありましたから。そういった感覚をもとに取材していって、構想を膨らませていくことが多いです。

―― なるほど、おそらくそういった最初の構想の部分はまずお二人でご相談されることになると思うのですが、中井先生の場合は、さらにそれを具体的な絵としてイメージされていくことにわけですよね?

中井: そうなるとやはりその構想に近い現場を訪ねてみます。実際の空気に触れることで雰囲気もつかめるし、意外な面白いものが出てきたりもしますし、現地に行くと必ずと言っていいほど新しい発見があるんです。そういう意味で、取材は大切にしています。

嶋田: 作品の中に出てくる現場には、特に相棒はほとんど実際に行ってますよね。例えば『キン肉マン』の五大城決戦の時は、五つのお城全て行ってたよね?僕は全部は行かなかったけど(笑)。

中井: 相棒の書いてきた原作を形にする時に、実

[P 310]

際のものを見ながらどういった状況になるのかをシミュレーションしてみるんです。そしたら「あの柱は使えるな」とか「キン肉マンはここから入場してくるんだろうな」とか、実際のものを見ながら想像するのは楽しいですね。

嶋田: あれから相棒は城マニアになりましたからね(笑)。

中井: いやいや。別に全国の城を回った訳じゃないですけど(笑)。でも、姫路城に行った時はさすがに感動しましたね。あの保存度や復元どの素晴らしさには感心しました。熊本城もよかったですよね。

―― やはり実際に観られるのと、資料写真やビデオで見られるのとでは、また感慨も異なってくるものなんでしょうね。

中井: そうですね。建物の大きさや空間の広さ。そういったものはなかなか実際に訪れてみないと想像しにくいですよね。

普段からの取材グセ

―― その他、取材「旅行」といった特別な取り組みではなく、日常的に取り組んでらっしゃるネタ収集のような行動は何かおありですか?

嶋田: 格闘技はよく見に行ってますね。

―― それは先生がお好きなのはもちろんでしょうけど、それ以外にも半分はお仕事のために?

嶋田: そうですね。試合内容の幹線もそうですけど、それ以外の意味でも、普段から僕は自分で「どこに行きたい」という欲求があまりないんですよ。でも格闘技の大きな大会が開催されていたら、ブラジルに行ったりアブダビに行ったり、そこで面白い体験をして、それが結果的に仕事に活かされる形になってますね。

―― 中井先生は何かそういった日常的な取材行動は?

中井: 格闘技雑誌はよく見ますね。それで目にとまる写真があれば、切り抜いてストックしておくということは日常的にやってます。

―― そういえば先生は以前、ボディビルダーの方などを個人的に雇って、スタジオで撮影したりもされていたそうですね?

中井: さすがに何度もそういう機会はないですけど、例えば欧米人のモデルさんに連絡して撮影させてもらったりしたこともありましたね。ただ格闘家の筋肉とボディビルダーの筋肉はまた違いますから、その辺は注意しないといけないんですけど。

―― 中井先生は医学書や体育理論の本なども読んでらっしゃることがありますね。

中井: 一時は全身の筋肉の名前まで覚えましたけど、今はもう忘れましたね(笑)。でもとても複雑なんですよ。というのは、解剖学に忠実にしすぎると絵としておとなしくなってしまう。迫力あるように見せるためには、ある程度無視しなくてはいけないんです。となると、自分で作らないといけない部分もある。そのあたりでは苦労はしますよね。

リアリティがメッセージに繋がる

―― 他には『グルマンくん』では、マンガに出てくるとんでもないメニューを実際に作られた、というお話をうかがったことがあるのですが?

嶋田: ヒーローの形をした弁当は、最初は想像で描いたんですけど、後でプロに頼んで本当に作ってもらいましたね。でも直立できなくて、ヒーローは寝たままでしたけど。

中井: 実際に作ったらかなりお金かかりましたね(笑)。でも想像だけじゃなくて、実際に作ってそれをマンガにすることもよくありましたよ。「フワフワ卵ラーメン」なんて、相棒が自分で作ってね。食べてみたら、実際おいしかったですよ。

―― そういったリアリティを、先生の場合は特に大切にされていますよね?

嶋田: そうですね。『グルマンくん』の場合なら実際に子供がマネしてお弁当を作ってみたりしてくれると嬉しいですし、『蹴撃手マモル』ならムエタイは実際にヘッドギアつけてこうやって戦うんだと納得してもらえると嬉しいし……多少はフィクションが入ってますけど(笑)。でもそうやってマンガの中のものでも実際にあるような感じで描く、というのは意識していますね。

―― そこには読者のリアリティを喚起させることでメッセージ性を強調する、という先生の方法論が感じられるのですが?

嶋田: 『蹴撃手マモル』をやってた頃だって「こんなヤツおらへん」とかいわれましたけど(笑)、でも期せずしてあの後、実際に海外に修行に行く格闘家も増えましたよね。

ゆでイズムにおける"絵"とは?

[P 491]

分業体制は自然ななりゆき

―― 今度は先生の絵に対してのお考えをうかがっていこうと思うのですが、その前に、今でこそ原作担当の嶋田先生と作画担当の中井先生、という風に分業されていますが、かつてはお二人で原作を考えて、お二人で絵を描いていらっしゃった、という時期も?

嶋田: デビュー当時はそうしていましたね。デビューしてしばらくたってから、当時の担当編集者の勧めもあって、作業効率がいいということで今のような分業制にしました。

―― その際に、どちらが原作担当でどちらが作画担当というのは、どのようにして決められたんでしょうか?

嶋田: すんなりと決まりましたね。分業と言っても二人での打ち合わせの機会は常にありましたし、それにその頃は既に、僕より相棒の方が絵が上手かったですから(笑)。

中井: 僕はどちらかと言うと絵を描く方が好きでしたし、ごく自然にそうなっていったという感じですね。

嶋田: でも最初はアシスタントなんていなかったので、相棒が本当に全部一人で描いていたんですよ。

中井: 集英社の中に当時あった執筆室という所に、

[P 492]

その頃よく放り込まれてカンヅメになることも多かったです(笑)。

―― では最初にアシスタントさんがついたのは?

中井: 最初の超人オリンピック編が終わった前後でしたかね。僕らは高校卒業してすぐにデビューしたので、アシスタントが年上だとお互い気を使いますし、それで一人でやってたんですよ。で、二十歳になったときにやっと初めて同い年のアシスタントがついたんです。でも同い年だからものすごく態度がでかくて(笑)。若い頃は色々大変でしたね。

最小のスペースで最大の効果を

―― では本題なんですが、先生は今年でデビュー25周年ということで、その間には絵に対しての意識や手法の変化も、様々におありだったと思うのですが?

中井: まず見てもらえれば、絵が明らかに違いますよね(笑)。よくこのレベルで仕事やってたなと自分でも思います。それはもう仕方ないとして(笑)、大きく変わったところといえば、コマ割りのクセがかなり変わりましたね。

―― それは今と昔では、どのような違いが?

中井: 時間的な都合もあったのかもしれませんけど、『キン肉マン』と『闘将!!拉麺男』をかけもちで連載していた頃はどうしても割りやすい三分割がメインでした。ページを横三段にまず割って、それぞれの間を縦に割っていくという。それだけでしたね。でも今では原作を活かす、または決められたページ数の中で上手く収めるためにはどうやるのが効果的なのか、ということをかなり考えるようになりました。

―― では原作の肝となるこの部分にはこういったコマで……といったところを起点に、組み立てて行かれる感じでしょうか?

中井: そうですね。半分はそういったパズルみたいな要素もありますね。でも昔の割り方では、今は絶対にできないです。

―― コマ割りについてのお話では、先生の特徴として感じるのは、例えば『キン肉マン』ですと、ド派手な印象に反して、実はほとんど大ゴマがないんですよね。見開きで使用されているコマに至っては数えられるくらいしか見当たらない。なのにあれだけ鮮烈な印象のコマが多いのが不思議でならないんですが?

中井: いや、そもそも絵が上手くないので、見開きで大ゴマ描いても隙間だらけに見えるだろうからやらないだけです(笑)。他の理由としては、やはり相棒の書いてきた原作をページ数内に収めるのが最優先なのと、あと、アメリカにアレックス・ロスというアーティストがいるんですが、彼はとても小さいコマの中にものすごく大きな空間を描くのが上手い人なんです。そういう人の作品を見ると、大きいコマや見開きで描けば必ず広い空間や迫力が表現できるのかといえば、決してそうではない。どんな小さなコマでも、描き方次第だと思うんです。

―― 『キン肉マン』の各コマがダイナミックな印象に反して小さいという事実には、先生のそういうポリシーが反映されていたんですね?

中井: あとは見開きって、手抜きに見えてしまうんですよね(笑)。読者からそう思われてしまうのが嫌だ、というのも大きいですね。

―― 手抜き嫌いといえば、先生は過去の回想を背景に使う場面でも、ほとんどコピーを使わず、毎回新たにそのシーンを描かれることが多いですよね。

中井: 手抜きが嫌いというより、そもそもコピーを使用すると汚くなりますからね。それだったら、新たに描いて綺麗な原稿を作った方が個人的にスッキリするんです。

―― ちなみに中井先生が嶋田先生の原作を毎回最初にお読みになる時、「うわぁ~。これどうやって表現しよう?」と悩まれたりすることもあるんでしょうか?

中井: 悩むというよりも、二人でやってると面白いな、と思うことの方が多いですね。というのは一人で原作も作画もやってると、どうしても内容上というより作業上という点で、自分に都合のいい話を作りがちになりますよね。苦手なものは描きたくないから避けますし。でも二人だとそれがないんですよ。だから原作を読んで「自分なら絶対にこういう選択はしなかったな」と思うことはよくありますよ。もっともそれが実際どうでるかは、読者の反応を見るまではわからないので良し悪しなんですが、しかしそこは二人でやってて面白い、と思うところではあります。大変な部分はありますけどね。

―― そういえばかつて中井先生は「アシュラマンはもう二度と描きたくない」と発言されていたことも?

嶋田: (爆笑)。

中井: 半年描きましたからね(笑)。でも嬉しかったですよ。伝説超人はオーラを持っていますから、それを描く楽しみはありました。だから「よーし、前よりも格好良く描いてやろう」とも思いましたし、昔はできなかったけど今ならできることもありますからね。それは楽しいところです。

―― ちなみにどんなに締切ギリギリで忙しい場合でも「アシスタントさんには絶対ここは任せられない!」という部分は?

中井: 主要キャラクターだけはもちろん絶対にそうです。できることなら全部自分で描きたい、と思ってるくらいですから。

―― 背景も含めて?

中井: ええ、でも背景はあまり上手くないんですけどね(笑)。

[P 493]

パソコンを使うとは思わなかった!?

―― 道具に関しては何か大きな変動は?

中井: ペンの種類などは昔からほとんど変わっていません。でもパソコンを使うようになるなんて、昔は思ってもいませんでした。

―― 確かに最近の先生は、特殊な超人の場合はパソコン内で3Dモデルを作って、それを参考にしながら実際の絵を描く、という作業もされていますね。

中井: 面倒ですけど複雑な超人や技はそうやって1つモデルを作ってしまうと、後はそれを何度もいろんなアングルで見ることができますから、結果的にはそうした方が作業も早くなるんです。

―― 昔はそういった複雑な超人の場合はどのように描かれていたんですか?

中井: 昔はそんな基準みたいなものなんて当然作ってなかったし、コロコロ変わってましたよね。だから間違いも多かったんです。バッファローマンのツノにしても、右が折れてたり左が折れてたり(笑)。

―― でも昔は、コミックスで絵の修正はあまりされていませんでしたね。

中井: 最近はよくやってますけどね。

嶋田: 若い頃は「コミックスになる時に原稿を修正していい」というのを知らなかったんですよ(笑)。だから昔の版は、そのまま明らかな間違いが残ってることも多いです。それを知ってからは直すようになりましたけど(笑)、でも僕ら自身、そういう誤植や絵の間違いを見つけるのが子供の頃楽しかった思い出があって、それで遊びとしてそういうのをわざと残してるところもあります。

中井: だから、例えばさんざん言われ続けてる『キン肉マン』の悪魔超人編でのプリプリマンは、この先もずっと直さないと思いますよ(笑)。

ゆでイズムにおける"ファン"とは?

[P 533]

3人目のゆでたまご

―― それでは今回のインタビューの最後のテーマ、先生にとってファンとはどういう存在なのか、そのあたりをおうかがいしたいと思います。

嶋田: やっぱり僕らの作品は「超人募集」などの企画をずっとやってきたように、ファン参加型、読者参加型のマンガですから。僕らの25年はファンといっしょに作ってきた、といっても過言じゃないと思います。ある意味では、ファンも作者の一人みたいなものだと言えるんじゃないでしょうか。

―― そういうタイプの作品やマンガ家さんって、見渡してもあまりないですよね?

嶋田: ないですね。逆にそういうことを意識的にやろうとしても、なかなか難しいと思うんですよ。僕らだって『キン肉マン』で始まったからこそ、それができたんだと思います。その他の作品で同じようなことをやろうとして、「やっぱり少し違うかな~」と思ったこともありますし。ファンは「キン肉マンという超人と、自分の作った超人を対決させたい」から、たくさんハガキを送ってきてくれた。それくらいキン肉マンという超人は魅力的だったということでしょうし、マンガの世界観もそういう

[P 534]

方向性にマッチしていたということですよね。で、読者のハガキがますますそのキン肉マンを大きく育ててくれた。これは本当にありがたいです。

―― その後も読者参加方式といえば『ゆうれい小僧がやってきた!』では「妖怪募集」がありましたし、『トータルファイターK』でも「カオの対戦相手募集」がありましたよね。

嶋田: ええ、ありましたね。

―― そして現在連載中の『キン肉マンII世』でも「超人募集」は続いているわけですが、先生がこの25年間、こうして読者参加方式を続けてこられたのはやはり「読者といっしょに作っていきたい」という思いがあったからなのでしょうか?

嶋田: うーん。例えばそういうのを一切なしでやろうと。それで募集告知も全くせずに新連載を始めたこともあるんですが、それでもね、読者が大量に送ってくるんですよ(笑)。その時に「ああ、僕らはこういうのを求められているんだな」というのがよくわかりましてね。

―― 先生のマンガはそういうものだと思われている?

嶋田: そう思われているみたいですね(笑)。そういうこともあって、もうトコトンこのスタイルでやっていこうと。でもその影響もあってか、僕らには純粋なファンレターというのがあまり来ないんですよ。だいたいファンの方が送ってくれるハガキには、メインでオリジナル超人やキャラクターの絵や説明がドーンと描かれていて、その周りに通常のファンレターに相当する文字を書いてくれている、というパターンがほとんどですね。

―― 中井先生はファンについてどう思われますか?

中井: まさに相棒が今話したとおりで、僕らはファンとともにやってきた、という感は非常に強いですよね。言うならば、ファンは「3人目のゆでたまご」というところじゃないでしょうか。

―― いい表現ですね。

昔のファンと今のファン

―― かつてのファンは子供がメインでした。でも今では昔からのファンも成長して大人になっていたり、新規の子供ファンがいたりするわけですが、そういうところでファンとの接し方も変わられたということは?

嶋田: 接し方自体は、今も昔も基本的には変わっていないです。ただ最近のイベント等では、親子連れのお客さんを見かけると特に嬉しいですよね。しばらく前に『キン肉マン』のアニメ上映イベントがあったんですが、そのアニメのアイキャッチで、キン肉マンの全身の筋肉が全部下にズリ下がるというのがあるんですよ。それに大ウケしてゲラゲラ笑ってた子供が会場に一人いましてね。それが呼び水となって会場中が笑いに包まれて……そういう雰囲気に触れると、こちらも嬉しくなりますよね(笑)。

―― そう言えば以前から気になっていたのですが、嶋田先生が単独でいらっしゃる時にサインを頼まれる場合もよくありますよね。それで、通常なら中井先生の絵の上に嶋田先生が署名をされるんですけど、たまに絵もいっしょに頼まれてしまって、そのまま嶋田先生が絵まで描かれることがあります。あの時の嶋田先生はどんなお気持ちなんでしょうか?

嶋田: 昔は相棒と絵が似ていたんで、あまり気にせず引き受けていたんですよ。でも最近はさすがに絵が違いますからね。キン肉マンやラーメンマンくらいなら何とかなるんですが「アシュラマンの全身描いてください!」とか言われるのは、正直なところカンベンして欲しいです(笑)。

―― さすがに嶋田先生がお仕事で絵を描かれていた頃は、キン肉マンとその周辺のキャラ数人しか出ていませんでしたからね。

嶋田: でも、最近は分業しているのをわかってて僕に絵を頼んでくる人もいて、そう言う人には「これが嶋田の絵です」という風に割り切って好きなように描いてますけどね。

中井: 前に僕がサインした時に一度「ゆでたまごのサインはこんなんじゃない!」と言われたことがありましてね。なんかおかしいなぁと思ってよくよく聞いてみたら、その人は相棒が前に書いたサインと僕のサインを比べていたらしいんですよ(笑)。

嶋田: 多分、僕の書いたサインの方が数は出回ってるかも知れないですよ(笑)。相棒はそんなにサイン描く機会がないですから(笑)。

中井: 確かに講演会やイベントには、僕はあまり出てませんからね。

―― でもやっぱりファンの方に頼まれたら嶋田先生も断りづらいでしょうし……それにそもそも嶋田先生はめったにサインを断らないですよね?

嶋田: ええ。僕は基本的には断らないですね。

中井: いや、僕だって断らないし、頼まれたら描きますよ(笑)。人聞きの悪い!(笑)。

ファンへのメッセージ

―― では最後になりましたが、両先生からこれまでの25年間、そしてこれからのファンのみなさんに対して、それぞれメッセージをいただければと思います。まずは、嶋田先生からお願いします。

嶋田: 今年は『キン肉マン』の25周年ですが、ゆでたまごのデビュー25周年でもありまして、この本に収録されているような読み切り作品や、みんなのあまり知らないゆでたまご作品がこうしてまとまっ

[P 535]

て一冊の本になる、というのは実に嬉しいことです。『グルマンくん』や『蹴撃手マモル』なんかは、ぜひまたいつか続きを描いてみたい作品ですし、とにかくこれらの作品を楽しんでもらえればと思います。そして、これからもゆでたまごをよろしくお願いします!

―― それでは中井先生からも、ひとことお願いします。

中井: ファンあってのゆでたまごですからね。これからもますます面白いハガキを期待していますので、どんどんお便りいただければと思います。よろしくお願いします。

―― 今日はお忙しい中、色々と貴重なお話をお聞かせいただきまして、両先生とも本当にありがとうございました。これからもご活躍を期待していますので、ぜひがんばってください!

(2004年7月23日 / スタジオエッグにて収録)

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