Copyrighted:夏目ナナのセクシャル "ナナ" スメント
"キン肉マンを作った男" 嶋田隆司(ゆでたまご) ――あの名作マンガの誕生秘話と "牛丼" の関係とは?
嶋田 高3のとき「週刊少年ジャンプ」の赤塚賞に準入選して、連載が始まったのはその翌年の1979年。でも原型は小学生のときから描いていて、まだ「筋」の漢字を知らなかったからカタカナになった(笑)。
夏目 ご出身、大阪ですよね。つまりキン肉マンも大阪生まれで、私と同郷なんや! 私はアニメ版を物心つく前から見てて、大好きでした。
嶋田 多分、最初のシリーズは83年から3年間放映されたのかな。
夏目 ばっちりリアルタイムや。オナラで空飛んでましたよね(笑)。そして、牛丼ひと筋80年。「吉野家」はキン肉マン様様ですよね。
嶋田 実はあれ、実家の近所にあった「なか卯」の牛丼なんだけどね。
夏目 あー、大阪には多いですもんね。最近は東京にも増えて、ダシの効いた味が女のコに人気だって。
嶋田 なぜかアニメが始まるときに、「吉野家の牛丼ということにして」ってお願いされたんだよね。ちなみに吉野家からは一銭ももらってませんけど(笑)。
夏目 すごいCM効果やん。でも噂では、一生タダで牛丼が食べられる「マイ丼」(吉野家がCM出演者などに進呈した)を持っているとか?
嶋田 あれね、テレビ番組で「本当に使えるのか」実験したことがあるんだ。僕自身が店に行ってね。
夏目 おー、どうやったんですか?
嶋田 食べれんかった(笑)。「お金払うから、これで食べさせて」って言ったら、「衛生上の問題で消毒しますよ」と。それで食べた。
夏目 なんや、ウソなんだマイ丼。
嶋田 番組を見た吉野家のお偉いさんが、後で謝りにきたけどね。
夏目 ところで、どうしてキン肉マンは牛丼が好きなんですか?
嶋田 ドラえもんがドラ焼き好きとか、ポパイがほうれん草で強くなるとか、そういうアイテムがあると親しみやすくなるでしょ。
夏目 そしたら、夏目のたこ焼き好きももっとアピールして売りにしよ。
嶋田 それに当時はオッサンの食い物だったから、「逆におもしろいだろ」って遊び心もあったかな。
夏目 今や大阪じゃ女のコも「牛しばきにいこ!」とか言ってる(笑)。
スランプの経験は必ずその後に生きてくる
夏目 高校卒業と同時に連載プロデビューって、すごいことですよね。
嶋田 カーテンレール会社の営業に就職が決まってたんだけど、少年ジャンプの編集長までやってきて、「絶対に売れるから」と口説かれた。
夏目 周りも喜んだん違いますか?
嶋田 うちは母子家庭なんで、オカンは「マンガ家なんて水商売は許さん」て。「芽が出んでも面倒見てくれるんでっか」なんて食って掛かると、編集長が「きちんと就職先を世話します」って応えたんだよね。
夏目 どんだけの期待やねん!
嶋田 デビュー20周年のパーティーで、その編集長が「なんのアテもツテもなかった」と白状したけど(笑)。
夏目 結果オーライやね。で、いきなり大ヒットでしょう?
嶋田 最初に住んだのは家賃1万6000円の風呂なしアパートで、作画は集英社の中にあった「執筆室」で監視されながらだよ。編集部は職員室で編集さんは先生。学校の延長みたいな感覚だったなぁ。
夏目 そうなんや。でも、単行本とか出れば収入がすごいやろうし、若いし、モテモテだったんじゃ?
嶋田 いちばん稼いでたのは22〜23歳だけど、描くのに精一杯で何もなかったなぁ。たまに編集さんに女のコのいる店に連れてかれても、ホステスさんはみんな年上だから「キン肉マン、何それ?」とか言われるし。
夏目 とはいえ、20歳そこそこなんてヤリたい盛りじゃないですか。
嶋田 ん~、精力はみんなマンガに注ぎ込んでた気がするな。編集さんがエロ話なんかしてると「このオッサン、何ヤラしいこと言うてんねん」とか思ってたんだから。いま考えると、なんて純粋だったんだろ。
夏目 『キン肉マンII世』は、ヌードやエッチ記事も満載の「週刊プレイボーイ」に連載されてますけど。
嶋田 最初は抵抗あったけどね。僕自身は不純になっても(笑)、作品は子供に向けて描いてたから。でも読切で何度か描いたら反応がすごくて、そうか、キン肉万世代が週プレの読者になってるんだと。
夏目 歴史ですね。それから、キン消しなんかのキン肉マングッズも山ほどありましたね。
嶋田 ニセモノもね。ブタ肉マンというのがあって、さすがに集英社が内容証明送って一緒にアジトに乗り込んだんだけど。アパートの一室で親子が、内職みたいに一生懸命作ってた。あれは哀しかったなぁ。
夏目 ……私、いま27歳なんですけど、その頃は何をされてました?
嶋田 8年間続いたキン肉マンの連載が終わって、2作目の連載が始まった頃ですね。気持ちが空回りして落ち込んでた時期。読者から「ゆでたまご終わったな」なんて手紙が来て、もうダメなんじゃないかって。
夏目 普通の社会人なら若手の年齢なのに、ひと仕事成し遂げてしまったからこそのスランプなんでしょうね。私も27歳でAVを卒業して芸能の世界への第一歩を踏み出したんですが、正直、不安もあるんです。
嶋田 ずっとマンガだけ描いてた世間知らずの僕は、その時期に同世代から年上までたくさん友達ができて、世界が広がりましたよ。それが、その後の仕事や人生に役立っている。
夏目 なるほど! 私も焦らず足元を固めたいと思います。今日はどうもありがとうございました。